てんかんの診断と治療

てんかんとは

てんかんとは、脳の神経細胞が異常発火を起こすことで、反復性の発作(てんかん発作)を引き起こす神経障害の一種です。てんかん発作は、全身を震わせる全身けいれん(痙攣)以外にも、意識障害、自動運動、感覚異常、精神症状など、さまざまな症状を引き起こすことがあります。
てんかん発作には下のような症状が見られます。

てんかん発作の様々な症状

意識の無くなる発作
  • 突然、動作が止まり、眼球が上転し、呼びかけに反応しない
  • 急に反応がなくなり、一点を凝視して口をもぐもぐさせる
  • 突然、その場にそぐわない無目的な行動を起こす
意識の無くならない発作
  • 手足が意図せず突然動く
  • 手足が一瞬だけピクっと動きものを落とす
  • 突然光が見えたり物がゆがんで見えたりする
  • 体の一部にしびれが出て広がる
  • 急に音やメロディーが聞こえる
  • 急に言葉が理解できないようになる
  • お腹に込み上げるような不快な感覚が出てくる
全身性のけいれん
  • 突然意識を失い
    両手足を突っ張る
    (強直発作)
  • ガクガクと大きく動く
    (間代発作)
  • 動作が止まり、
    いびきをかいて眠り、
    しばらく反応がない
  • 30分から1時間経つと
    普段通りになる

てんかんの発作は、数十秒から数分以内に自然に治まりますが、繰り返し発作が起こることが特徴です。

発作の種類と原因

発作の種類(発作型)、てんかん病型の分類

発作症状の性状や左右の違い、意識の状態がどうであったかということが、どんなてんかん発作であるか判断する上で重要になります。
これらの症状に関する情報や脳波検査などの結果をもとに、脳の中でどのような拡がり方をしているかを医師が判断します。その上で、以下のように焦点起始発作と全般起始発作として分類します(発作型の分類)。

一部例外はありますが、焦点起始発作を起こしている方は焦点てんかん、全般起始発作を起こしている方は全般てんかんと診断されます(てんかん病型の分類)。
専門的にはさらに、てんかん症候群に当てはまるかどうか、という点も考慮します。

国際抗てんかん連盟によるてんかんの分類

このように、発作型、てんかん病型といった分類を行なっています。
このホームページでは、発作の名称やてんかんの分類は2017年に改訂された国際抗てんかん連盟の定義を使用していますが、改訂前の名称(部分てんかんや複雑部分発作など)も広く使用されています。

てんかんの原因

てんかんの原因には、先天性の脳の異常、外傷、脳腫瘍、脳卒中、感染症、代謝異常、免疫性などがあります。例えば脳腫瘍など外科手術で取り除ける原因であれば、それらに対する治療を行うことで、てんかん自体が改善する可能性があり、原因を特定することは非常に重要です。一方で、半数以上で原因は特定されない、もしくは原因が特定されても原因を取り除くことが出来ないため、多くの方はてんかんに対する治療を行う必要があります。

発作への対応

  • 患者さんが痙攣し始めた場合には、まず身の回りの安全を確保しましょう。
  • 発作に伴って激しく動き回ることがありますので、転落する恐れがないか、ぶつかって怪我をするものがないか、高いところのものが落ちてきて怪我をしないか、注意して見守ってください。
  • 嘔吐物を誤嚥しないように、可能であれば体を横に向けてあげましょう。
  • 舌を噛まないようにと口の中に物を詰めることは、窒息事故を防ぐため決してしないでください。
  • 事前に発作時の坐薬をもらっている方は投与を試みてください。痙攣していて投与が難しい場合は、無理に投与する必要はありません。発作が落ち着いてから投与してください。
  • 全身が痙攣するような発作が5分以上持続する場合は、一旦発作が治っても反復したり、頓用薬だけでは発作が止まらない可能性が高いため、救急要請を行い、病院にて速やかに治療を受けて下さい。
  • 患者さんの発作の様子は、診断および治療に大変有用な情報となりますので、発作がどのようであったか(目は開いていたか、どちらを向いていた、手足は伸びていたか曲がっていたか、右手と左手で違いはあったか、力が入っていたかなど)について、観察し主治医に報告して下さい。実際には、冷静に覚えておく余裕はないと思いますので、ビデオでの動画撮影も検討して下さい。
  • もともとのてんかんのタイプや、患者さんの状態によって、発作への対応は異なりますので、発作時の対応については、事前に主治医と十分に相談しておく必要があります。

生活上の注意点

大半のてんかん患者さんは、知的障害や脳性麻痺などの併発がない場合、発作が起こらなければ健康な方と同様の生活を送ることができます。発作を悪化させたり、発作時の事故を起こさないためにも、以下の点にご注意ください。運動や食事について不明な点があれば主治医にご相談ください。

お薬について

主治医から処方されたお薬は、飲み忘れのないように定期的に内服してください。もしも、薬を飲んだ直後に嘔吐してしまった、薬を紛失してしまった場合には主治医に対処法についてご相談ください。

睡眠について

睡眠不足の状態になると発作が起こりやすくなることが知られています。十分な睡眠をとるように生活リズムを整えてください。

食事について

ケトン食療法などの食事療法を行われていない限り、食事に関する制限は特にありません。ただし、一部のお薬ではグレープフルーツの摂取によりお薬の血中濃度が上昇してしまうことがあります。また、過度な飲酒はてんかんのお薬の働きを妨げるおそれがあります。

運動について

発作がなければ、スポーツを行うことは可能です。ただし、万が一発作が起こった時の対処法として介護できる人が傍にいることが望ましいです。また、疲労や緊張により発作を誘発する可能性がありますので、体調が万全でない場合は休むことも必要です。特に水泳は、泳いでいる際に発作が起こった場合は命に関わることがあります。定期的に休憩をはさむこと、万一の時に備えての体制が整備されていることを意識してください。

入浴について

入浴時に発作を起こすと、浴槽の中でおぼれてしまう可能性があります。誰かと一緒に入浴する、湯量を少なめにする、発作が多いときはシャワーだけにするなどの工夫が必要です。

てんかんの診断

てんかんは一般的に以下のような情報に基づいて、医師が診断をしていきます。

1.問診

てんかんの発作には様々な種類があります。発作が起こった時の情報をもとに、どのタイプの発作であったか、医師が詳しく情報を聴き取り、判断します。

  • 発作の始まりはどのような症状から始まったか。どのくらい発作が続いたか。患者さん本人は意識を失っていることも多いため、特に目撃した方の情報が重要です。スマートフォンで撮影した映像があると非常に役立ちます。
  • 発作症状が出るようになったきっかけ(寝不足、疲労、飲酒、発熱など)。
  • これまで罹患したことのある病気(熱性痙攣や頭部外傷、頭の手術歴、脳卒中、認知症の有無など)。
  • 現在治療中の病気や服用中の内服薬に関する情報など。
    初診時には、上記のような問診を行うため、病院受診前に、発作の情報を整理してまとめておくと、医師に伝えやすく診断に役立ちます。

2.脳波検査

てんかんは「脳の不整脈」と言われることがあります。症状がなくても、脳波活動に異常をきたしている場合があります。その場合、脳波を観察することで、てんかんの種類や原因を特定することができます。
脳波検査は、頭皮に電極を取り付けて、脳の神経活動を測定する検査です。脳の神経細胞が出すわずかな電流を記録することで脳の働き具合を調べていきます。脳波で特徴的なパターンや発作波が捉えられると、てんかんのどのタイプであるか判断する一助になります。
1回の記録では異常を捉えられないこともあるため、繰り返し検査を受けていただくこともあります。また、脳波の異常が観察できない方も一定数おられるため、脳波の検査だけで診断が決まるわけではありません。
脳波検査はてんかんの診断がついた後も、治療効果を判断する目的で行われることがあります。

3.脳画像検査(CT、MRI、SPECT、PET)

大脳の内部の異常を調べる検査です。てんかんの原因となる病変(例えば、脳腫瘍や脳出血)や、てんかんと関連する異常(例えば、海馬硬化症)を調べるために行われます。ただし、必ず異常が見つかるとは限らず、画像検査では異常が見当たらないてんかん患者さんも少なくありません。

4.長時間ビデオ脳波モニタリング検査

上記のような検査を行っても診断に至らない場合に行う入院検査です。正確な診断のために、発作時の状況をビデオ撮影しながら、脳波も同時に計測します。この検査を行うことで、発作がどのような状況で起こり、どのような発作かを詳しく調べることができます。また、長時間ビデオ脳波モニタリング検査では、普段の生活の中で起こる発作も捉えることができます。
この検査の結果をもとに、抗てんかん発作薬の種類や投与量を調整することができるほか、手術を行うかどうかの判断基準にもなります。ただし、この検査を行うためには入院が必要であり、専門性の高い病院でしか行えません。

長時間ビデオ脳波モニタリング

5.脳磁図検査

脳から発せられる磁場を測定することにより、脳波よりも正確にてんかん性異常の焦点を検出する検査です。北部九州では九州大学病院にのみ設置されています。

6.高次脳機能検査

記憶、言語機能、前頭葉機能などを検査することにより、脳機能に障害がないか、脳のどの部位が障害されているか、を検出します。長時間ビデオ脳波モニタリング検査の入院時に一緒に検査することもあります。

7.その他の検査

てんかんの一部には、代謝異常や脳炎が原因になっていることがあり、その場合一般的なてんかん治療以外にも有効な治療法が存在する可能性があります。こういったケースでは血液検査や心電図検査、髄液検査などの検査が行われることがあります。

詳細な問診、神経学的診察、検査

てんかんの治療

薬物療法

てんかんのタイプに合わせて、てんかん発作を抑える抗てんかん発作薬を使って治療を行います。基本的には1種類の薬剤を使って治療をしますが、十分な効果がない時には薬剤を変更したり、複数の薬剤を一緒に使用したりすることもあります。それぞれの薬剤によって効果や副作用が異なるため、主治医が適切な薬剤を選択して治療を行います。

外科的治療

薬物療法だけでてんかん発作が抑えられない場合、腫瘍や異常な組織を取り除く手術を行う場合があります。この手術では、事前に脳内の異常な部分を特定する検査を行います。手術方法は、発作の種類や頻度、発作が起こる場所などに応じて選択されます。
手術が困難な焦点てんかんあるいは全般てんかんの場合には、他の種類の手術が検討されます。

てんかんの外科治療

運転や交通機関
の利用

自動車運転

道路交通法では、「過労、病気、薬物の影響その他の理由で正常な運転ができないおそれがある状態で運転してはいけない」とされており、てんかんは、その病気の一つに該当します。
ただし、定期的な医師の診察を受け、てんかんに対する適切な治療を受けている方は、2年間再発がない場合などの一定の条件を満たせば運転を許可されることがあります。
国内法や学術団体の指針など専門的な判断が必要なため、必ず主治医の指示に従ってください。

自転車運転

自転車の利用については、法律上の規定はありませんが、運転中に発作が起きると、転倒して怪我をする恐れがあります。そのため、てんかんによる発作が頻繁に起こる場合は、自転車の利用を控えることが望ましいとされています。ご自身の発作の状況を伝えた上で、主治医の判断を仰ぐようにしてください。

公共交通機関

バスや電車、タクシーなどの利用に関しての制約は特にありませんが、長距離移動をする際には、事前に主治医に相談し、抗てんかん発作薬の服用タイミングや発作のリスクについて確認しておくことが大切です。飛行機の利用に関しても一般的に制約はありませんが、病気の背景や発作頻度によって判断は変わることがあります。搭乗の前には主治医に相談するようにしましょう。また、万一発作が起こった際に乗務員に対処法を伝えられるよう緊急カードを携帯しておくと、いざという時にも適切に対処してもらえます。
病気の状態によっては、障害者手帳の対象となり、公共交通機関の利用料金の減免措置を受けられることもあります。

女性とてんかん

妊娠前

女性のてんかん患者さんで、将来的に出産を希望される方はまずは主治医に相談して計画的な妊娠を考えましょう。てんかんのお薬の中には、生まれてくるこどもの知的発達に悪影響を与えるものがあるため、事前に相談していただければ、てんかんの薬の種類を影響の少ないものに変更することや、量を調整することができます。自己判断で薬を減らす、中止することがないようにしてください。
また、妊娠を考えているすべての女性に対して、少なくとも妊娠の3か月前から葉酸をとることが推奨されています。てんかんのお薬の中には体内の葉酸を減少させるものがあるため、主治医から必要に応じて葉酸が処方されることがあります。

妊娠中

妊娠中もてんかんの薬を規則正しく服用するようにしてください。妊娠中に発作が出現すると、流産のリスクとなることがあります。妊娠により、てんかんの薬の血中濃度が変動することがありますので、定期的な血液検査を行うことがあります。

出産

てんかんのある方が出産を行う場合は、てんかんの主治医と産婦人科医との連携が必要です。産婦人科の先生に、てんかん発作のリスクや発作時の対応について理解していただくため、てんかんの主治医に紹介状を書いてもらうようにしましょう。
出産に関してはてんかんを有する女性でも自然分娩が可能で、90%以上の人が通常の方法で赤ちゃんを出産します。

出産後

出産後は育児により睡眠リズムが乱れることがあります。パートナーや家族に協力を仰ぎ、家事や育児を分担してもらうようにしましょう。てんかんのお薬を飲んでいる状態でも、授乳は可能です。ただし、母乳中にお薬の成分が分泌され、赤ちゃんが眠りすぎている、哺乳力が低下するなどの症状がみられることがあります。その際は主治医にご相談ください。

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